『Slow Down Boogie』     作/簑田詢平
 
休日の午後。女が道を歩いている。道ばたに1万円札が落ちているのを発見する。
女はややあたりを気にしながらすばやく金を拾う。女は行こうとする。
すると突然、後方から声がする。
 
子ども/
あ!
 
驚いて振り返る女。4,5歳くらいの子どもが女を指さしている。
 
子ども/
そのお金、僕のなんですけど!
女/
……これ?
子ども/
(うなずく)
女/
…ほんとに?
子ども/
嘘はいいません。
女/
……あなた、そんなちっちゃいのに、1万円も持ってたの?
子ども/
そうです。返して下さい。
女/
(少し考えて)…ちょっと信じられないわね。
 
女、行こうとする。
   
子ども/
ドロボー!
 
女、驚いて足を止める。
 
子ども/
みなさん、聞いて下さい!この人はドロボーです!
女/
ちょっと止めなさい!なにいってんの…!
子ども/
だって人のお金をとるのはドロボーでしょ?
女/
…………このお金、ほんとにあなたのなの?
子ども/
ですからそれについてはなんども言ってるんですけど。
女/
(少し考えて)なんでこんな大金を持ってたの?
子ども/
(なかなか答えられずにいる。しまいには外人がやるように、さあ?といった身振りをする。)
女/
答えられないでしょ?嘘はいけないことなのよ。このお金はお姉さんが交番に届けてきます。
子ども/
…交番(くすくす笑う)
女/
…なにがおかしいの…?
子ども/
だって…交番…(口を押さえてクスクス笑っている)
女/
落ちてるお金を拾ったら、交番に届けるのが当たり前でしょ?
子ども/
当たり前の事が当たり前に行われればね(クスクス笑う)
女/
なにいってるの…私はもう行くわよ(行こうとする)
子ども/
…給食費なのに
女/
(足を止めて)え?
子ども/
僕の幼稚園の給食費なのに…
女/
…給食費…?
子ども/
…でもいいです。明日からお昼ご飯を食べなければすむことだから…
女/
ほんとなの?
子ども/
ですから、嘘は言いません。
女/
じゃあ、さっき何で答えられなかったの?
子ども/
子どもが突然の質問に的確に答えられないことはよくあることです。
女/
(考えて)給食費なら給食費を入れる袋があるでしょ?袋は?
子ども/
(なかなか答えられずにいる)
女/
どうして袋に入れてなかったの?
子ども/
(なかなか答えられない。しまいには外人がやるように、さあ?といった身振りをする。)
女/
やっぱり、嘘じゃない。
子ども/
あなた、そーとうのキレ者ですね…。
女/
なにいってるの。もう行くわよ。
子ども/
待って!
女/
(足を止める)
子ども/
僕、迷子なんです。
女/
え?
子ども/
迷子なんです。
女/
迷子なの?お家近くじゃないの?お家どこ?
子ども/
人生の迷子です。
女/
人生…?
子ども/
明日から給食も食べられない…。これは人生に迷ってしまったんじゃないでしょうか?
女/
だって、給食費は嘘なんでしょ?
子ども/
(外人がやるように、さあ?といった身振りをする)
女/
(子どもの腕を持って)一緒に来なさい。
子ども/
僕をどうするの?
女/
お金と一緒にあなたも交番に届けます。
 
女は子どもを連れて行こうとする。すると、子どもは手をふりほどき、
 
子ども/
ごーかーく!あなたは合格です。そのお金はあなたに差し上げましょう!では!
 
子ども、走り去る。
 
FIN